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2023年12月 「能力」の生きづらさをほぐす 

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「能力」の生きづらさをほぐす

勅使川原真衣/著
どく社/2022.12



 近未来2037年、亡くなった母が幽霊となって23歳の息子と17歳の娘のもとに現れた!
「能力のないできないやつ」という職場の評価に悩む息子を救うために。「能力」が重視されるこの社会、でも、そもそも「能力」って何?そして3人の「能力」をめぐる対話が始まる…。
そんなストーリーのこの本は、末期がん宣告を受けた著者の勅使川原真衣さんがその将来を見守れないかもしれない幼い息子と娘に遺(のこ)そうと、大学院での研究対象として、また仕事でも深く関わってきた「能力」について書いた本です。

日本の高校生の意識調査では、諸外国に比べ「自分には人並みの能力がある」と答える人が少ないという結果が出ています。(※平成26年度 高校生の生活と意識に関する調査<独立行政法人国立青少年教育振興機構>) 
大人になって、ものごとがうまくいかないのは自分の「能力」が足りないせいだと孤軍奮闘、自信をなくしたり不安をかかえたりする人も多いそうです。

でも、部活、職場、スポーツチームといった人と人がともに何かを目指す場において最も重要なものは、個人の「能力」よりも組織の仕組み、計画の進め方、お互いのコミュニケーションといった「関係性」であり、人と人の組み合わせがマッチしたときにこそ最高の成果があがるものだと勅使川原さんは言います。

「能力」が足りないと自分を追いつめないで欲しい、「できる」「できない」で優劣をつけることなく人と人が助け合う、そんな社会の中で生きて欲しい…。
そんな勅使川原さんの子どもたちの未来への願いが、ユーモラスな語り口ながらも切実に伝わってくる1冊です。

 そしてこの本を読んで、もし「能力」と社会の関わりについて興味が湧いたらこちらの本もどうぞ!



人間の条件-そんなものない-増補改訂版

立岩真也/著 新曜社/2018


実力も運のうち-能力主義は正義か?-

マイケル・サンデル/著 鬼澤忍/訳 早川書房/2023